ラ・ビーニャのタルタ・デ・ケソ日本では「バスクチーズケーキ」ともTarta de queso de La Viña レシピ
Tarta de queso de La Viñaタルタ・デ・ケソ・デ・ラ・ビーニャ

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日本でバスクチーズケーキと呼ばれているお菓子は、スペイン北部の港町サン・セバスティアンにある一軒のバル(立ち飲みもできる酒場)で生まれました。表面は黒く見えるほど焦げていて、中はとろりと半熟です。土台のビスケット生地はなく、くしゃくしゃの紙ごと焼いた素朴な形をしています。
材料はクリームチーズ、卵、砂糖、生クリームと、ほんの少しの小麦粉だけです。ここでは、サン・セバスティアン市の観光局が紹介している店の配合の比率をそのまま守り、日本で手に入りやすい直径18cmの型1台分に縮めて焼きます。
ラ・ビーニャのタルタ・デ・ケソとは
スペイン語では「タルタ・デ・ケソ・デ・ラ・ビーニャ」(Tarta de queso de La Viña)、つまり「ラ・ビーニャのチーズケーキ」と呼ばれます。タルタ・デ・ケソは、スペイン語でチーズケーキのことです。スペインでは「タルタ・デ・ケソ・バスカ」(バスクのチーズケーキ)という呼び名も広く使われ、バスク語では「ガスタ・タルタ」(gazta tarta)といいます。海外では「サン・セバスティアン・チーズケーキ」や「バスク・チーズケーキ」の名で広まりました。
旧市街のバルで生まれた
ラ・ビーニャは、サン・セバスティアン(バスク語でドノスティア)の旧市街、8月31日通りにある家族経営の小さなバルです。スペインの料理メディア Directo al Paladar によると、1959年に、長く店主を務めたサンティアゴ・リベラ氏の両親と叔父夫婦が開きました。
リベラ氏は家族の店を継ぎ、料理人として厨房に立ちました。新聞 El Independiente の記事によると、きっかけは、口の中でほどけるムースのような食感をチョコレートで試していたことでした。その食感をチーズケーキで出そうとして、じゃまになるビスケットの土台をなくしたといいます。インターネットも料理学校もなかった時代だったと本人は振り返っていて、料理本を読み比べ、休みの日に試作を重ねました。できたケーキは、客席の手前にあるバーのカウンターに置き、はじめは1台ずつ売れていったと伝えられています。
生まれた年は、はっきりしていません。新聞 El Español や、Directo al Paladar の多くの記事は1990年代としていますが、Directo al Paladar の2025年の論説は1980年代としています。リベラ氏はレシピを店だけの秘密にしようとはせず、まねされることも悪く思っていないと伝えられています。サン・セバスティアン市の観光局のサイトにも、店の配合が載っています。
世界に広まったチーズケーキ
市の観光局は、口コミとインターネットで評判が広がり、ニューヨークや日本、オーストラリアでも知られるようになったとしています。2020年12月には、アメリカの新聞ニューヨーク・タイムズの記者キム・セヴァーソンが、2021年の食のはやりを予想する記事で、このチーズケーキの味を2021年を代表する味になりそうなものとして挙げました。スペインの記事には、これを2021年に選ばれたと書くものもあります。
2026年6月には、リベラ氏の引退が伝えられました(Directo al Paladar によると65歳)。店は2人の子どもと、店のマネージャーで30年ほど共同経営者を務めてきたミケル・カステジャノス氏が引き継ぐとされています。
バスクの伝統菓子ではない
名前に「バスク」とつきますが、昔からバスク地方で作られてきたお菓子ではありません。Directo al Paladar の論説は、一軒の店で生まれ、広まってからの年月も短いことから、「ラ・ビーニャのタルタ・デ・ケソ」と呼ぶほうが正確だとしています。カタルーニャの新聞 Ara も、サン・セバスティアンの人にいちばん好まれているお菓子は、パイ生地とアーモンド、カスタードクリームで作るパンチネタだと伝えています。
ラ・ビーニャのタルタ・デ・ケソのレシピ:材料(直径18cmの丸型1台(8切れ分))
生地づくり 20分(材料を室温に戻す1〜2時間は別)焼き 35〜45分(このあと4時間以上冷やす)難しさ やさしい
型の準備
- 水(クッキングシートをぬらす)200ml
生地
- クリームチーズ(ブロックのもの)600g
- グラニュー糖240g
- 全卵220g(Mサイズ約4個)
- 薄力粉8g(大さじ1弱)
- 生クリーム(乳脂肪分35%以上の動物性)300ml
作り方
材料を室温に戻す
クリームチーズ600gと全卵220gを冷蔵庫から出し、室温に1〜2時間おく。クリームチーズは指で押すとすっと沈むくらいの柔らかさにする。
型を準備し、オーブンを予熱する
クッキングシートを40cmの長さに2枚切る。1枚ずつくしゃくしゃに丸めて広げ、ボウルに入れた水200mlにくぐらせて、固く絞る。2枚を十字に重ねて型に敷き込み、底と側面に沿わせて、縁から4〜5cm上に出す。天板を下段に入れ、オーブンを210〜220℃に予熱する。表示が予熱完了になってから、さらに10分待つ。
クリームチーズと砂糖を混ぜる
別のボウルにクリームチーズを入れ、ゴムべらで練ってなめらかにする。グラニュー糖240gを加え、ざらつきがなくなるまですり混ぜる。泡立てず、空気を入れないように混ぜる。
卵を加える
全卵220gを溶きほぐさずに1個分ずつ加え、泡立て器でそのつど静かに混ぜる。前の卵がなじんでから次を加える。
粉と生クリームを加える
薄力粉8gを茶こしでふるい入れ、粉が見えなくなるまで混ぜる。生クリーム300mlを3回に分けて加え、そのつど混ぜてなめらかな生地にする。ダマが残ったら、茶こしかざるでこす。
焼く
生地を型に流し、予熱した天板にのせて210〜220℃で35〜45分焼く。表面が濃い焦げ茶色からところどころ黒くなり、型をそっとゆすると、縁から3〜4cmは固まっていて、中心の直径8〜10cmほどがプリンのようにふるふるとゆれれば焼き上がり。35分で表面の色が薄ければ、230℃に上げて3〜5分焼き足す。中がゆるく見えても、冷やすと固まるので焼きすぎない。
冷ます
厚手のミトンで型を取り出し、網の上に置く。型もシートもとても熱いので、素手でさわらない。ふくらんだ生地が沈むが、それでよい。型のまま室温で1〜2時間おき、粗熱が取れたらラップをかけて冷蔵庫で4時間以上(できれば一晩)冷やす。
型から外して切る
よく冷えてから、シートごと持ち上げて型から外し、シートをはがす。食べる30分〜1時間前に冷蔵庫から出しておくと、中心がとろりとする。包丁を湯で温め、1回切るごとに拭いて8等分にする。
切り分けてそのまま食べます。Directo al Paladar のレシピは、ブラックベリーのソースや生のベリーを添える食べ方も紹介しています。コーヒーのほか、甘口のワインにもよく合います。
料理科学:高温で表面を焦がし、中を半熟に残す理由
焦げ色は、乳と砂糖が色づいたもの
料理科学者のハロルド・マギーは、チーズケーキをカスタードの一種とし、湯せんなどで低めの温度でゆっくり焼いて全体を均一に固めるものとして説明しています。ラ・ビーニャのチーズケーキは逆で、市の観光局が紹介する配合では210℃で約40分と、高温で焼きます。なお、店のマネージャーのカステジャノス氏は、店ではガスオーブンを180℃にして40分焼くと話しています。この記事では、家庭のオーブンで焼くので、観光局の配合の210℃を基準にしました。
生地の表面は、オーブンの熱で水分が飛ぶと、100℃を超えて温度が上がります。マギーによると、120〜150℃を超えたあたりから、たんぱく質と糖が反応して色と香ばしさが生まれるメイラード反応が勢いよく進みます。この生地には、乳のたんぱく質と乳糖、卵、砂糖がたっぷり入っているので、よく色づきます。さらに160℃台からは砂糖そのものが焦げるカラメル化も始まり、表面がほろ苦い焦げ茶色から黒になります。
中心は、卵が固まりきる前に焼き終える
一方、生地の中心は温度がなかなか上がりません。生地の半分ほどは水分で、熱が外から少しずつしか伝わらないからです。
卵のたんぱく質は、60℃台から固まり始めます。マギーによると、牛乳や砂糖で薄めた卵液は固まる温度が上がり、80℃前後でようやく固まります。この生地はクリームチーズと生クリームと砂糖が多く、卵の割合が小さいので、中心はなおさら固まりにくいと考えられます。
高温で短く焼くと、表面が焦げるころ、中心はまだ卵が固まりきらない温度にとどまります。焼き上がりで中心がふるふるとゆれているのはそのためです。逆に、中心がゆれなくなるまで焼くと、冷やしたときに、中までしっかりした普通のチーズケーキに近い食感になります。
生地を泡立てないのも、同じ理由です。混ぜるときに入った空気は、オーブンの中でふくらみます。空気が多いと生地が大きく持ち上がり、冷めるときに大きく沈んだり割れたりします。
料理科学:粉が大さじ1弱しか入らない理由
少しの粉は「つなぎ」
市の観光局の記事は、小麦粉は生地をまとめる役目だとしています。小麦粉のデンプンは、加熱されると水を吸ってふくらみ、生地に軽いとろみをつけます。マギーによると、デンプンには卵のたんぱく質どうしが強く結びつきすぎるのを妨げる働きもあります。粉を入れたカスタードクリームが、煮立てても分離しないのはこのためです。ただし、この配合の粉はカスタードクリームよりずっと少ないので、高温で焼かれる縁の分離をどこまで防いでいるかは、確かめられていません。
多く入れると、とろりとしなくなる
デンプンが多いと、冷めたときにデンプンの網目がしっかりして、生地全体が固くなります。ラ・ビーニャの配合では、粉はクリームチーズ1kgに大さじ1〜1.5ほどです。この記事の配合でも8gで、生地全体の1%に届きません。
スペインのレシピには、粉を50g入れ、もっと固くしたいならコーンスターチを足すとするものもあります(OKDIARIO)。粉を増やすほど、とろりとした中心は失われていきます。
料理科学:焼いたあと冷やす理由
余熱で中心を仕上げる
焼き上がった直後の中心は、まだゆるい状態です。取り出したあとも、熱い外側から中心へ熱が伝わり続け、中心はもう少し固まります。ゆれるうちに取り出すのは、この余熱を見込んでいるからです。
乳脂肪が固まって、切れるようになる
マギーによると、乳脂肪は体温より少し上の温度で完全に溶け、冷蔵庫の温度ではかなりの部分が固まります。温かいうちは、クリームチーズと生クリームの脂肪が溶けているので、中心はスープのように流れます。冷やすと脂肪が固まり、包丁で切れるクリームのような固さになります。市の観光局の記事も、よく冷えてから型から外すよう書いています。
ただし、冷蔵庫から出してすぐは固く、とろりとした食感が出にくくなります。Directo al Paladar の記事で、マドリードの菓子職人ダビッド・フェルナンデス・コルドベス氏は、17〜18℃くらいで出すのがよいとしています。何分前に出すかまでは書かれていないので、この記事では、食べる30分〜1時間前に冷蔵庫から出すのを目安にしました。
中心はほぼ生に近い卵が残ります。新しい卵を使い、粗熱が取れたら早めに冷蔵庫に入れてください。オーブンを高温にするので、シートの端が上のヒーターに近づかないよう、天板は下段に入れます。焼き上がった型とシートはとても熱いので、厚手のミトンで扱います。
スペインで見られるほかの配合
- Directo al Paladar:店の配合のおよそ0.57倍の量を、18〜20cmの型で焼きます。焼いたあと、火を止めたオーブンの中で扉を少し開けて4〜5時間おきます。
- Público:クリームチーズ1kgに砂糖300g、粉30gと、店の配合より甘さ控えめで粉が多めです。バニラ(なくてもよい)と塩も加え、20〜22cmの型に入れて210〜220℃で40〜50分焼きます。
- OKDIARIO:粉50gにレモンの皮を加え、型にバターと粉を塗って焼きます。粉が多いぶん、固めに仕上がる配合です。
手に入りにくい材料の代用
この記事の材料は、どれもスーパーで買えます。選ぶときの注意です。
- 生クリーム:乳脂肪分35%以上の動物性のものを使います。植物性のホイップクリームでは、味も冷やしたときの固まり方も変わります。
- グラニュー糖:上白糖でも作れます。上白糖は転化糖を含むので焼き色が早くつきます。焼き時間の終わりのほうは、こまめに色を見てください。
- 底が抜ける型:なくても作れます。シートで型の内側をすべて覆っているので、底が抜けない型でも、シートごと持ち上げて取り出せます。
- 直径20cmの型:同じ分量で焼けます。生地が薄くなるので、焼き時間は5分ほど短めに見て、中心のゆれで判断します。
失敗したときは
- 表面が焦げ茶色にならない:オーブンの温度が足りません。予熱完了の表示からさらに10分待ってから焼き、35分で色が薄ければ230℃に上げて3〜5分焼き足します。
- 中までしっかり固まった:焼きすぎです。次は5分早く取り出し、中心がまだゆれるうちに止めます。粉を多く入れても固くなります。
- 切ると中心が流れ出す:冷やす時間が足りないか、焼き時間が短すぎます。冷蔵庫で4時間以上冷やしても流れるときは、次は焼き時間を3〜5分延ばします。
- 生地にダマが残る:クリームチーズが冷たいままだったか、生クリームを一度に加えたためです。クリームチーズを柔らかく戻し、生クリームは分けて加えます。残ったダマはこして取ります。
保存
- 冷蔵:ふたのできる保存容器に入れて2〜3日(ラップをかけるだけなら翌日まで)。中心が半熟なので、室温には置かない
- 冷凍:切り分けて冷凍庫で1〜2時間凍らせ、固まったらラップで二重に包んで1〜2か月。保存容器に移して冷蔵庫で一晩かけて解凍する(室温では解凍しない)
スペイン・ポルトガルのほかのレシピ
もっと知りたい人へ
出典
- Donostia San Sebastián Turismoa「Por qué la "San Sebastian cheesecake" conquista el mundo」(スペイン語)
- Donostia San Sebastián Turismoa「Zergatik Donostiako gazta tartak mundu osoa bereganatu duen」(バスク語)
- El Español「Adiós al 'padre' del postre vasco más internacional: Santiago Rivera, creador de la tarta de queso de La Viña, se jubila」(スペイン語)
- Directo al Paladar「Adiós al padre del postre más copiado de la historia: Santiago Rivera, inventor de la tarta de queso de La Viña, se jubila」(スペイン語)
- Directo al Paladar「Tarta de queso al horno de La Viña: receta fácil y tradicional」(スペイン語)
- Directo al Paladar「La Viña: cómo un pequeño bar de pintxos de Donostia logró crear la tarta de queso más famosa del mundo」(スペイン語)
- Directo al Paladar「The New York Times califica a la tarta de queso de La Viña como "sabor del año"」(スペイン語)
- Directo al Paladar「La tarta de queso vasca se ha hecho famosa en todo el mundo, pero de vasca tiene poco」(スペイン語)
- El Independiente「Tarta de queso: la historia del postre global que se remonta a los romanos」(スペイン語)
- Público「Receta de tarta vasca de queso」(スペイン語)
- OKDIARIO「Tarta de queso la Viña, receta tradicional」(スペイン語)
- The Objective「Soy experta en gastronomía y esta es, sin duda, la mejor tarta de queso del mundo」(スペイン語)
- About Basque Country「Gazta-Tartaren hedapen izugarria. Donostian jaioa eta munduaren konkistatzailea」(バスク語)
- Ara en Castellano「San Sebastián, capital de la panchineta, dice bastante a la moda inventada del pastel de queso」(スペイン語)
- Directo al Paladar「Cómo guardar la tarta de queso estilo La Viña: no te la juegues con las tartas fluidas」(スペイン語)
- Directo al Paladar「Esta es la temperatura perfecta para servir una tarta de queso, según uno de los mejores pasteleros de Madrid」(スペイン語)
本文とレシピは、上の情報源を比べたうえで独自に組み立て直したものです。