ヴィクトリア・スポンジVictoria sponge レシピ
Victoria spongeヴィクトリア・スポンジ

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ヴィクトリア・スポンジは、同じ重さの卵・バター・砂糖・粉で焼いた2枚のスポンジに、ラズベリージャムを挟んだイギリスのケーキです。上には砂糖を軽くふるだけで、飾りはありません。紅茶の時間の定番で、英国女性協会(WI)の品評会でもおなじみの菓子です。
材料が少ないぶん、ごまかしがききません。WIの雑誌では、作り手の腕を試すケーキとも紹介されています。ここではWIの作り方にならい、バターと砂糖をよく泡立てるクリーミング法で、20cmのサンドイッチ型2枚で焼きます。
ヴィクトリア・スポンジとは
英語のつづりは Victoria sponge です。2枚で挟むことから Victoria sandwich(ヴィクトリア・サンドイッチ)とも呼ばれ、WIは主にこちらの名前を使います。名前にスポンジとありますが、卵を泡立てて作る日本のスポンジケーキ(ジェノワーズ)とは違い、バターをたっぷり使う、パウンドケーキに近い生地です。
ミセス・ビートンの「サンドイッチ」から
WIの雑誌『WI Life』によると、「ヴィクトリア・サンドイッチズ」のレシピが初めて印刷されたのは、1861年のイザベラ・ビートン『家政読本(Book of Household Management)』です。イギリスの雑誌『Country Life』も、これをヴィクトリア・サンドイッチの最初の記述としています。『WI Life』によれば、卵4個と、その重さと同じ砂糖・バター・粉で作る配合でした。膨張剤は入れず、10分間よくかき混ぜて空気を含ませていました。
食物史家のアニー・グレイは『Country Life』の記事で、ビートンのものは四角いケーキを横に切ってジャムを塗り、指の形に切り分ける菓子だったと説明しています。『WI Life』も、ジャムを挟んで細長い指の形に切るとしています。いまのように丸い1台で出す形とは違いました。
『WI Life』は、精製した白い小麦粉と砂糖、そして1840年代のベーキングパウダーの発明で、きめの細かいバターたっぷりのケーキが作れるようになったと書いています。『Country Life』は、カスタードパウダーで知られるアルフレッド・バードが1843年にベーキングパウダーを作ったとしています。
『WI Life』によると、WIの機関誌『Home & Country』の1922年7月号に、いまのレシピの祖先とわかるスポンジ・サンドイッチのレシピが載りました。このときはまだ王室とのつながりはありません。「ヴィクトリア」の名前がWIの出版物に出てくるのは1957年からです。食物史家のグレイは、戦後の長い配給制のあとに甘いものが求められたことや、WIなどがこのケーキを特別扱いしたことが、お茶の時間の定番になった理由だと見ています。
ヴィクトリア女王との関係
王室の公式サイトや『Country Life』は、ヴィクトリア女王(在位1837〜1901年)にちなんだ名前だとしています。しかし、女王がこのケーキを食べていたかどうかは、言う人によって言い方の強さが違います。
- 王室の公式サイトは、ヴィクトリア女王にちなんで名づけられたとし、女王は毎日午後のお茶でスポンジケーキを一切れ食べていた、と書いています。
- 『WI Life』の記事(料理作家メアリー・グウィン)は、ヴィクトリア・スポンジの始まりは女王の治世の初めの頃にさかのぼるとしています。女王と女官たちは、こうしたケーキと紅茶の新しい食事を、昼食と夕食の長い間を埋めるものとして楽しんだと書いています。ただし、女王がこのケーキそのものを食べたとは書いていません。女王がスポンジケーキを好んだという記述は、1927年のウィルトシャーの料理本にあるのが最初で、女王の大好物だったといわれる、という書き方だと紹介しています。
- ウォリック大学の食物史家レベッカ・アール教授は、同じく食物史家のアリサ・レヴィーンの話として、女王がワイト島のお茶会で、ジャムを1層だけ挟んだものを楽しんだと紹介しています。一方で、女王が自分で焼いたとは考えにくいとも書いています。
- アニー・グレイは『Country Life』の記事で、女王は甘いもの好きだったので、おそらく食べただろうと述べています。ただし記事は、女王の献立にこのケーキは見当たらず、証拠はないとも書いています。
ヴィクトリア・スポンジのレシピ:材料(直径20cmのサンドイッチ型2枚分・1台(8切れ分))
生地づくり 30分(ほかに、焼いたあと冷ます時間が約1時間)焼き 22〜27分難しさ やさしい
型の準備
- 食塩不使用バター(型に塗る)10g
スポンジ
フィリングと仕上げ
- ラズベリージャム(種入りでよい)120g
- グラニュー糖(上にふる)10g(小さじ2と1/2)
作り方
材料と型を準備する
卵とバターを室温に戻す。バターは指で押すとすっと跡がつく固さ(18〜21℃くらい)がよい。オーブンを170〜180℃に予熱する。サンドイッチ型2枚の内側にバター10gを薄く塗り、底に直径20cmに切ったオーブンシートを敷く。
粉を合わせる
薄力粉200gとベーキングパウダー8gを合わせ、2回ふるっておく。
バターと砂糖を泡立てる
ボウルにバター200gとグラニュー糖200gを入れ、ハンドミキサーの高速で3〜5分混ぜる。黄色みが抜けて白っぽくなり、ふんわりと量が増えればよい。
卵を数回に分けて加える
全卵200gを溶きほぐし、大さじ1〜2ずつ加えては、そのつど30秒ほどよく混ぜる。生地がぼそぼそと分離しかけたら、手順2の粉から大さじ1(約8g)を加えて混ぜるとまとまる。
粉を混ぜる
手順2の粉を2〜3回に分けてふるい入れ、ゴムべらで底から大きくすくい返すように、粉が見えなくなるまで混ぜる。練らないこと。ゴムべらですくって軽くふると、生地がぽとりと落ちる固さになればよい。落ちにくいほど固いときは、牛乳を大さじ1/2(7.5ml)ずつ、15mlまで加える。
型に分けて焼く
生地を2つの型に重さで等分し(1枚あたり約400g)、表面を平らにならす。オーブンの中段で22〜27分焼く。最初の15分は扉を開けない。表面がきつね色で、縁が型からわずかに離れ、中央を指で軽く押すと弾力があって戻れば焼き上がり。どちらか1枚の中央に竹串を刺して、生地がついてこないことも確かめる。刺したほうを下の1枚にすると、上の1枚に穴が残らない。
冷ます
型は熱いのでミトンを使う。型のまま5分おいてから縁にナイフを1周させ、ふきんをかぶせた網の上に返して取り出し、オーブンシートをはがす。網の跡がつかないよう、ふきんの上で完全に冷ます(約1時間)。
ジャムを挟む
焼き面のきれいなほうを上の1枚にする。もう1枚を焼き面を下にして皿に置き、上になった平らな面にラズベリージャム120gを縁から5mmほど残して均一に塗る。上の1枚を焼き面を上にして重ね、軽く押さえる。表面にグラニュー糖10gを薄くふる。
切り分けて、ポットで淹れた紅茶と一緒に出します。
料理科学:バターと砂糖を泡立てる理由
砂糖の結晶が、バターに空気の穴をあける
手順3でバターと砂糖を数分泡立てるのは、生地に細かい空気の泡をたくさん作るためです。料理科学者のハロルド・マギーによると、砂糖の結晶の角がやわらかいバターに食い込み、そのすき間に空気が入り込みます。バターの脂がその小さな泡を包んで閉じ込めます。白っぽくなって量が増えるのは、この泡が増えたしるしです。WIのレシピも、よく泡立てるほど空気を抱き込んで、ふくらみを助けると説明しています。
このとき、バターの固さが大切です。冷たくて固いバターには結晶が食い込めません。溶けかけたバターは泡を保てずに逃がしてしまいます。目安は、指で押すと跡がつくくらいの固さです。温度でいえば18〜21℃ほどです。手順1でバターを室温に戻すのはそのためです。
ベーキングパウダーは泡をふくらませる
ベーキングパウダーは、重曹と酸性の粉を混ぜたものです。水分と熱で反応して二酸化炭素を出します。マギーは、この気体は新しい泡を作るのではなく、すでにある泡に入り込んでふくらませると説明しています。つまり、手順3で作った泡の数と細かさが、焼き上がりのきめを決めます。泡立てが足りないと、ベーキングパウダーを入れても粗く重いスポンジになります。
オーブンの中では、泡の中の空気と二酸化炭素と水蒸気が熱でふくらみます。その形のまま、卵のたんぱく質が固まり、粉のデンプンが糊化(水と熱でデンプンが膨らみ、のり状になること)し、スポンジの骨組みになります。焼いている途中で扉を開けて温度が下がると、骨組みが固まる前に泡がしぼみ、中央がへこみます。最初の15分は扉を開けないでください。
料理科学:卵は少しずつ、粉はさっくり
卵を一度に入れると分離する
泡立てたバターに卵を加えると、卵の水分がバターの中に細かく散らばった状態(乳化)になります。卵黄に含まれるレシチンなどが、水と脂をなじませる役目をします。ところが一度にたくさん入れると、バターが水分を抱えきれずに分かれ、ぼそぼそとした見た目になります。分離した生地は、せっかく抱き込んだ空気も逃がしやすくなります。
卵を少しずつ加え、そのつどよく混ぜるのはそのためです。冷たい卵はバターを冷やして固め、分離を起こしやすくするので、室温に戻しておきます。WIのレシピは、分離しかけたら粉を加えるとよいとしています。粉が余分な水分を吸って、生地がまとまります。
粉を練ると固くなる
小麦粉に水分を加えて混ぜると、たんぱく質がつながってグルテンという網目ができます。パンには必要ですが、このスポンジでは網目が強いと固く、ふくらみの悪い生地になります。手順5で粉をさっくり混ぜ、練らないのはそのためです。たんぱく質の少ない薄力粉を使うのも同じ理由です。
クリーミング法とオールインワン法
イギリスには、ヴィクトリア・スポンジの混ぜ方が大きく2つあります。
- クリーミング法:この記事の作り方です。バターと砂糖を泡立ててから、卵、粉の順に加えます。WIの基本のレシピ、王室の公式サイトのレシピ、料理誌『delicious.』のレシピがこの方法です。
- オールインワン法:材料をすべてボウルに入れ、一度に混ぜます。メアリー・ベリーのレシピがこの方法で、冷蔵庫から出したばかりの焼き菓子用マーガリン(ベーキング・スプレッド)を使い、ハンドミキサーで2分ほど、なめらかで色が明るくなるまで混ぜます。
メアリー・ベリーもWIも、オールインワン法ではセルフレイジング・フラワーに加えてベーキングパウダーを小さじ1足しています。バターと砂糖だけを泡立てる工程がないぶん、抱き込む空気が少ないのを補うためと考えられます。この記事の分量で作るなら、ベーキングパウダーを4g(小さじ1)増やして12gにし、材料をすべてボウルに入れて、ハンドミキサーで2分ほど混ぜます。バターは指がすっと入るくらい、しっかりやわらかくしておきます。焼き方は同じです。
WIのレシピは、オールインワン法で作ったものは伝統的な方法より日持ちが短く、品評会でもたぶん勝ちにくいだろうと書いています。
ジャムとクリームの流儀
何を挟むかは、イギリスでもよく議論になります。
- ジャムだけ:WIの品評会の基準では、挟むのはラズベリージャムで、たっぷり均一に塗り、上にはカスターシュガーを軽くふります。アニー・グレイもジャムだけを支持し、クリームを添えるなら横に、という立場です。この記事のレシピはこの流儀です。
- ジャムとホイップクリーム:メアリー・ベリーのレシピは、いちごジャムと、泡立てたダブルクリーム(乳脂肪分の高い生クリーム)を挟みます。同じ20cm型2枚で、いちごジャムは370g入りの瓶の半分(約185g)、クリームは300mlです。日本で作るなら、乳脂肪分40%以上の生クリーム300mlを、砂糖を入れずに角が立つまで泡立てます。下の1枚の底の面にクリーム、上の1枚の底の面にジャムを塗り、ジャムの面を下にして重ねます。
- ジャムとバタークリーム:王室の公式サイトのレシピは、ジャムの上にバタークリームを重ねます。食塩不使用バター150gと粉砂糖220gを白っぽくなるまで泡立て、バニラエッセンス小さじ1/4を加えます。仕上げは粉砂糖です。
生クリームを挟んだものは傷みやすいので、組み立てたら冷蔵庫に入れ、その日のうちに食べてください。
手に入りにくい材料の代用
- セルフレイジング・フラワー:イギリスの、膨張剤をあらかじめ混ぜた小麦粉です。薄力粉200gにベーキングパウダー8g(小さじ2)を合わせて代わりにします。イギリスの製粉会社 Doves Farm のセルフレイジング・フラワーの栄養表示(食塩相当量)から、含まれる重曹を粉100gあたり約1.2gと見積もりました。重曹が3割ほどのベーキングパウダーに置き換えた目安の量です。ベーキングパウダーの重曹の割合は製品によって違うので、推定を含みます。Doves Farm は自家製の目安として、粉100gにベーキングパウダー小さじ2を合わせるとしていますが、これは表示からの計算よりかなり多いので、ここでは使いません。
- カスターシュガー:粒の細かいグラニュー糖です。日本のグラニュー糖で代用できます。細粒タイプのほうがバターに早くなじみます。
- 20cmのサンドイッチ型:日本で手に入りやすい18cmの型2枚で作るときは、面積に合わせて分量を約0.8倍にします。バター・グラニュー糖・卵・薄力粉は各160g(卵はMサイズ約3個)、ベーキングパウダーは6g(小さじ1と1/2)、ジャムは100gにして、20〜25分焼きます。型が1枚しかないときは、深さ6cm以上の20cmの丸型に全量を入れて焼き、冷めてから横半分に切る方法もあります。王室の公式サイトも、型が1枚なら焼いて半分に切ればよいとしています。焼き時間は2枚で焼くより長くなります(35〜45分が目安ですが、出典のレシピには時間の記載がありません)。竹串を中心まで刺して、生地がついてこないことを確かめてください。
失敗したときは
- 生地が分離した:卵が冷たかったか、一度に入れすぎたのが原因です。粉を大さじ1加えて混ぜると、たいていまとまります。
- ふくらまず、きめが粗く重い:バターと砂糖の泡立てが足りないか、バターが溶けかけていたことが多いです。粉を加えてから混ぜすぎた場合も固くなります。
- 中央がへこんだ:焼き時間が足りないか、途中で扉を開けたのが原因です。ベーキングパウダーの入れすぎでも、泡が大きくなりすぎてしぼみます。
- ジャムがスポンジにしみ込んだ:スポンジが温かいうちに挟むと、ジャムが溶けてしみ込みます。完全に冷めてから挟みます。
保存
- ジャムだけを挟んだもの:乾かないよう密閉容器に入れ、涼しい室温で2〜3日。WIのレシピは、クリーミング法のケーキは密閉した缶で数日もつとしています
- 生クリームやバタークリームを挟んだもの:ラップで包んで冷蔵庫で保存し、ホイップクリームはその日のうち、バタークリームは翌日までに食べきります。メアリー・ベリーは、クリームを挟んだものは冷蔵庫に入れ、室温に戻してから出すとしています
- 冷凍:挟む前のスポンジを1枚ずつラップで包んで冷凍できます。メアリー・ベリーも、焼いたスポンジは冷凍に向くとしています。室温で解凍してから挟みます
もっと知りたい人へ
出典
- Mary Berry「Victoria Sponge Sandwich」(英語)
- The Women's Institute「WI Victoria sandwich」(英語)
- WI Life(The Women's Institute)「Let them eat CAKE」(英語)
- The Royal Family「A Royal Victoria Sponge Cake Recipe」(英語)
- delicious. magazine「Classic Victoria sponge recipe」(英語)
- Hairy Bikers「Victoria sponge」(英語)
- Country Life「Victoria sponge: The ultimate test of every baker and a favourite of the nation」(英語)
- University of Warwick「'Queen Victoria truly did enjoy a Victoria sponge' says Food Historian Professor Earle」(英語)
- Doves Farm「How To Make Self Raising Flour」(英語)
- Morrisons「Doves Farm Organic Self Raising White Flour 1kg」(英語)
本文とレシピは、上の情報源を比べたうえで独自に組み立て直したものです。